ハイマツ低木林、亜高山帯リーグ降格への道のり〜タンネウシ2月号

ハイマツ低木林、亜高山帯リーグ降格への道のり

内田 暁友

ハイマツ低木林(2008年8月8日、知床沼)

 

 

素晴らしきかな知床峠
「知床で植物を見るオススメの場所はどこですか」と聞かれたとき、最初に思い浮かぶのは知床峠です。なぜ、と思われるかもしれません。一般的にはこの峠は羅臼岳を眼前に、海の向こうに国後島を遠望できるという観光地で、標高も740 mと驚くほど高くもありません。しかしハイマツ低木林の中を立派な国道が通り、しかも峠には整備された広い駐車場があるという条件は国内になかなかなく、知床ならではと思います。
ハイマツは、知床はもちろん北海道の山の景観をかたちづくる重要な植物です。しかし山慣れた方なら一度や二度はこの松にひどい目にあっているのではないでしょうか。密生する力強い枝が人間の体のあらゆる部分にひっかかり、行動を制限される上に装備まで奪われます。私自身もこれまで登山道のないハイマツ低木林を何度も横断し、フィールドノートやヒグマ撃退スプレー、GPSレシーバーなど数々の装備を失い、服は裂けたボロ布にされてきました。
それが何の装備も要らず、海岸から15分ほど車で走れば広大なハイマツ低木林の真ん中に到着するのです。運がよければ高山鳥ギンザンマシコだって鳴いているかもしれません。こんな素敵な場所があるでしょうか。

ハイマツ低木林は高山帯?
このハイマツ低木林をかつては高山帯の植生と説明するのが普通でした。しかし最近は国外の高山帯との比較研究が進み、亜高山帯に含まれると考えられるようになってきました。
ハイマツの生育環境は本来はグイマツのような高木になる落葉針葉樹の下であり、ロシアでは広くそのような姿が見られます。ところが日本の山岳では特殊な環境、つまり冬季の強い季節風と深い積雪がグイマツの生育を妨げ、代わってそれに耐えられるハイマツが栄えているというのです。なので一見して森林限界を超えた高山帯のように見えるハイマツ低木林ですが、その本質は亜高山帯植生の特殊な形ということになります。
まるでサッカーJ2リーグ降格のような残念な気分ですが、言われてみればハイマツ低木林でよく見られるゴゼンタチバナやコミヤマカタバミといった植物は、亜高山帯を代表する植生である針葉樹林でもよく見られ、そういうことかと納得させられます。
そして真の高山帯といえる場所は、日本では富士山のようなごく限られたところにしかないようです。

タンネウシ2月号(表面)
タンネウシ2月号(裏面)

 

 

 

 

 

 

 

三浦

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