ハタケゴケの故郷〜タンネウシ9月号

ハタケゴケの故郷

内田 暁友

コハタケゴケ(2017年9月9日、知床半島)

 

 

 

春の岬旅のをはりの鴎どり/浮きつつ遠くなりにけるかも—三好達治

畑の苔、ハタケゴケ
畑にコケが生えているのを見たことがあるでしょうか。秋によく見られるのはウキゴケ科ウキゴケ属のコケで、日本で17種が知られています。姿はゼニゴケに似ていますがはるかに小さく、密に2分岐して円形に広がる姿が特徴的です。多くの種の和名にはミドリハタケゴケやカリタハタケゴケのように最後に「畑苔」とつき、あたかも畑のスペシャリストです。
しかし彼らも最初から畑が主な生育地だったわけではありません。コケの長い長い歴史からすれば、ヒトが農耕をはじめたのはごく最近のことなのですから。
そもそも農耕地は多くの野生植物にとって心地よい場所ではないはずです。水を入れたり落としたり、植えつけや収穫のたびの土起こしや大量の栄養追加など、短い間隔で定期的に環境が大幅に改変されるのが農耕地です。多くの野生植物はこのような環境で快適な暮らしは望めません。
しかしハタケゴケのように耕地雑草といわれる特殊な植物たちは、そういった困難をさまざまな生態的な特性で乗り越えてきました。ハタケゴケに悩まされる人は少ないかもしれませんが、イヌビエ、アオゲイトウ、ヒメスイバといった耕地雑草に悩まされる人は多いことでしょう。
ハタケゴケは地面すれすれで育つ体とバラバラにされてもすぐ復活する一般的なコケの特性をもちます。また他のコケより大型の胞子をつくることで裸地化した畑で発芽した後、速やかに生長できるでしょう。密に分岐しつつ地面を覆う生長様式も裸地での勢力拡大に効果的といえます。

故郷をさがして
では彼らは、本来の自然のなかではどのような場所に生育しているのでしょう。水位変動や掘り返しで定期的に裸地化し、明るくて湿り気のある土のあるところ…
そんな場所が知床にもあるのかずっと気になっていましたが、最近ようやくみつけました。数平方メートルの窪地で、くぼみに溜まった雪が春に溶けて池になり、夏にようやく干上がります。干上がる直前はオタマジャクシが大量にいて、土は栄養豊富かもしれません。そんな池が干上がった後の裸地に、美しいコハタケゴケの絨毯ができていたのです。
ハタケゴケが畑でたくましく生きる姿も魅力的ですが、自然のなかの野性的な姿はまた格別でした。他にも、まだ見つけてはいませんが、定期的に氾濫する川の岸辺なども候補地でしょう。次はどんな場所で出会えるのか、秋のひそかな楽しみです。

タンネウシ9月号(表面)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タンネウシ9月号(裏面)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

内田

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