あなたのクレソンは?〜タンネウシコラム12月号

あなたのクレソンは?

内田暁友

早春だけ葉が褐色–紫色を帯びるムラサキオランダガラシ(斜里町、2018年3月31日)

早春の味覚

クレソンという名前で親しまれる早春の山菜があります。独特の香りと辛みが人気で、山菜好きの方ならお気に入りの採集場所がひとつくらいあるのではないでしょうか。水湿地に生える多年草で大根などと同じアブラナ科、はう枝から発根することで拡がって大きな群落をつくります。和名はオランダガラシ。その名のとおりヨーロッパ原産の帰化植物です。栄養豊富なためヨーロッパでは薬草としても古くから用いられ、オランダガラシの学名Nasturtium officinaleの種小名は「薬用の」を意味します。

クレソンにも種類があった!

ここまでは通常の一般的なクレソンの説明です。しかし今年、自分の知っている斜里町内のクレソン自生地をよく観察したところ、どうやらオランダガラシそのものではない植物をずっとクレソンと呼んでいたと初めて気づきました。北海道ではもともとオランダガラシの仲間の帰化植物がもう1種記録されています。それはコバノオランダガラシN. microphyllumで、その名のとおり葉が小さめですが、オランダガラシと確実に区別するには果実と種子の確認が必要とされています。ではこれだったのでしょうか?結果はコバノオランダガラシでもオランダガラシでもありませんでした。なんと、この両者の雑種であるムラサキオランダガラシN. ×sterileだったのです。

あなたのクレソンの正体は?

それでは、よく知られているオランダガラシとその他の種はどう違うのでしょうか。コバノオランダガラシとムラサキオランダガラシは早春だけ葉が茶–紫色を帯びていることが多く、山菜として採集する頃に葉の色に注意しておけば通年緑色であるオランダガラシと違う可能性が高いです。しかし確実な区別は果実ができる夏以降におあずけです。オランダガラシの仲間は長角果(ちょうかくか)と呼ばれる細長い果実をつけます。果実のなかは縦に2つの部屋に別れ、それぞれの細長い部屋に種子が並びます。オランダガラシの種子は部屋に2列に、コバノオランダガラシは1列に並びます。では雑種のムラサキオランダガラシは?こちらは種子がほとんどできず、できても果実に1–3個です。毎年食べているクレソンが本当はなんなのか、味に違いがあるのか、斜里にはどの種類が多いのか、生えている環境は違うのか、気になりませんか? 1年の計は元旦にありといいます。ぜひ来年の計画にお馴染みのクレソンの正体を探ることを加え、結果を教えてもらえれば幸いです。

タンネウシ12月号表面
タンネウシ12月号裏面

平河内

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