オホーツク人の石事情〜タンネウシコラム8月号

オホーツク人の石事情

平河内 毅

黒曜石の原石とヤジリ(チャシコツ岬上遺跡)

動物を仕留める銛や弓矢、肉や骨を断つナイフ、物に穴を空けるキリなど、用途に合わせて自由自在に変化する黒曜石という石をご存知でしょうか。北海道で鉄の利用が一般化するまでの間、黒曜石は古代人の生活を支えるたいへん重要な素材でした。とくに道東部には日本最大級の黒曜石原産地である白滝や置戸などがあり、多くの遺跡で黒曜石を用いた石器づくりが行われています。
これらの原産地は内陸部に位置しますが、河川の運搬作用によって白滝産の黒曜石は湧別川の河口部で、また、置戸産は常呂川の河口部で拾うことができます。そのため、海岸部を生活圏とするオホーツク人も内陸まで行かずに黒曜石を得ることができました。それでは、オホーツク人は白滝産と置戸産のどちらの黒曜石を利用していたのでしょうか。

メインは白滝
黒曜石は産地によって成分が少しずつ異なるため、遺跡から見つかった石器と原産地で採取した原石を比較すると産地を推定することが可能です。そこで、道東のオホーツク文化後期(8〜9世紀)の遺跡から発掘されたヤジリを分析したところ、白滝産の黒曜石が多く利用されていることが分かりました。しかし、斜里からは常呂川(置戸産)の方が距離は近いのに、なぜ白滝産の黒曜石をメインに利用していたのでしょうか。

原石タイムアタック
斜里のチャシコツ岬上遺跡ではヤジリに使われた素材の約98%が黒曜石であり、彼らの狩猟活動に欠かせないアイテムであることがよくわかります。言い換えれば、安定して黒曜石が供給されないと生活に支障が出るということです。では実際に常呂川と湧別川の河口部ではどれくらいの黒曜石を採取できるのでしょうか。
制限時間は1時間、黒曜石を見慣れた学芸員2名でひたすら原石を採取したところ、常呂川(置戸産)ではたったの3個であったのに対し、湧別川(白滝産)ではなんと125個の黒曜石が拾えました。さすがに日本最大級というだけあって、湧別川(白滝産)の圧倒的な黒曜石の供給量には驚きます。短時間にこれだけの黒曜石が得られるのであれば、白滝産がメインの石器素材となっていたことも納得できます。また、供給源の湧別川から100 km以上離れた枝幸町や根室市でも白滝産が圧倒的に多く利用されていることからも、遠方まで黒曜石を供給する仕組みがオホーツク文化の集団間にあったと考えられます。そのため、常呂川(置戸産)の方が近くても、各地の遺跡へ向けて出荷されていた白滝産の黒曜石が多く利用されていたと考えられます。

平河内

タンネウシ8月号(表面)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タンネウシ8月号(裏面)

 

 

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