消えていく虫たち〜タンネウシコラム5月号

「消えていく虫たち」

松田功

ヒメギフチョウ

春になり暖かな日差しを感じると何故かしらソワソワしてきます。斜里出身の私は野山に出かけ山菜を取り、川や海に行き魚釣りをします。それは小さな頃から至って自然なことでした。中学に入り、先生の影響でチョウに目覚めました。きっかけは、先生が授業中に「こんなチョウを見たことあるかい?」と言ったことでした。

黄色の地に黒のシマシマが入って、赤い斑点がチラリと見えました。キアゲハの小さなやつだと思いました。「これはヒメギフチョウというチョウで、こいつを探しているんだ」と先生は言いました。女子の一人が「私の家の近くで見たことある」とぽつりと呟きました。皆、へーと言うような顔をしていました。それを聞いた我々一部の男子は、すぐさまその場所まで行くことを決めました。

桜が咲きはじめ、蕗の薹(アキタブキ)やエゾノリュウキンカが咲いていた頃だったと思います。教えられた場所まで行くと、ワクワクした気持ちの反面、ほんとかなと言う疑惑の気持ちが入り混じった変な感覚でした。そうこうしているうちに、何かが飛ぶ姿が目に入りました。それがターゲットのチョウであることはすぐにわかりましたが、見た途端、ふわふわとゆったり飛ぶ美しい姿に魅せられ動けなくなってしまいました。

そうこうしているうちに誰かが彼女(ヒメギフチョウ)をゲットしたのです。そこからは競争のように採集が始まりました。この時からかれこれ45年ほど経ちますが、この時の無我夢中で網を振った記憶は忘れられません。

ヒメギフチョウは春の女神とも言われるように、やはり美しいチョウです。しかし、最近ではその数もかなり減ってしまいました。知床国立公園や世界遺産地域では、まだ多く見かけることができます。しかしそれ以外の場所では明らかに激減しています。毎年確認しているのですが、姿を見かけなくなった地域もあります。

ヒメギフチョウの姿が見えなくなった後にひっそりと地味なチョウが現れます。チャマダラセセリです。蛾と見間違うようなチョウです。こちらもめっきり姿を見なくなりました。環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧I類と判定されています。他にもアサマシジミ(イシダシジミ)北海道亜種が絶滅危惧II類とされ、こちらは斜里では見かけなくなりました。

こうして昔の思い出だけが残り、少しずつ貴重な虫たちが消えていく。悲しいと思うのは虫屋達だけかもしれませんが。

タンネウシ5月号表
タンネウシコラム5月号裏

平河内毅

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