講演と博物館の役割〜タンネウシ1月号

イダシベツ河口付近で土饅頭をつくる大きなヒグマ

阿部 公男

 先日、知床のヒグマについて研究してきた白根ゆりさん 神保美渚さんをお招きして「研究から見た知床のヒグマのくらし」と題する講演会を開催しました。
知らなかったヒグマの事実を知り、改めて知床に暮らす幸せを感じています。

貴重な出来事を体験できる環境
 数年ほど前、これまでに見た事がないほど大きなヒグマが土饅頭を作る場面に遭遇しました。土饅頭はシカやトドなどの死骸を見つけたヒグマが、死体に土や落ち葉をかぶせ、長期間食べ続けるための保存場所のようなもので、周辺でうろつくキツネやオジロワシ、カラスなどを威嚇しながら近くの藪に潜む姿には脅威を感じました。このような行動を目撃できることは稀なことで、ヒグマに限らず多くの野生生物の普段のくらしを間近で観察できる環境は知床の大きな魅力になっています。
 ヒグマが鮭鱒を捕食し、トドやクジラの死骸に餌づくことは当たり前と思っていましたが、実は違っているようです。
季節により、エサのある場所や種類が違うことや、強いオスとの軋轢を避ける行動、親熊の習慣などの要因によって食生活には個人差があるのだそうです。

うんこから
 うんこハンターと称する白根さんによれば、飲まず食わずの冬眠から目覚めたヒグマは、夏に向け草や昆虫を主なエサとしていて、この時期まではやせ続けます。そして夏から秋にかけてハイマツと鮭鱒を捕食して強力に回復し、秋には山ブドウやサルナシを食べて肥満状態になることが分かりました。まるでコース料理のようです。余談ですが、山ブドウやサルナシなどを食べたうんこはフルーティーな香りで、鮭鱒を食べたうんこは悪臭がするそうです。 

体毛分析や行動観察から
ヒグマのストーカーと称する神保さんは、生息地や性別、年齢等による食生活の個体差などを調べ、オスは年齢が上がることにより鮭鱒を捕食する個体が増え、メスは年齢にかかわらずハイマツや植物を食べる個体が多いことを説明しています。知床のヒグマならどこでも鮭鱒を食べ放題ということではないようです。また、遺伝子分析による知床のヒグマの血縁関係からは、強く行動的なイケメン熊が多くの子孫を残していることもよくわかりました。

次世代の育成
 地元では見慣れた知床の光景も、 実は知らないことが多く、研究者や観光客だけではなく、私たちにとっても非日常だと気づかされました。講師のお2人が希望していた斜里の中高校生に講演を聞いてほしい、研究に興味を持ってほしいという思いは当館も同じです。知床の事実に関心を持ち、この地の価値を探求する次世代の育成に寄与する取り組みが必要です。


タンネウシ1月号表面



タンネウシ1月号裏面



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