イワウベツ川に住む魚たちのいま 〜タンネウシ2月号

臼井平

イワウベツ川の魚に起きている異変

 今年度から、世界遺産地域を流れるイワウベツ川で知床財団・知床博物館・東京農業大学の3 者協働で魚類の生息密度を調べるモニタリング調査が始まりました。その結果から、この川に存在している2 基の砂防ダムが魚類に大きな影響を及ぼしている可能性が見えてきました。ダムの上流側と下流側で魚類の生息密度に約20倍もの違いが見られたのです。

ユネスコからの勧告

 イワウベツ川は知床五湖に向かう途中にあり、川沿いに道もついていることから観光客など毎年多くの人が訪れます。秋になるとサケを獲るヒグマの姿を見る ことができる「知床らしい」川とも認識されていますが、実はこの川にある砂防ダムを含めた人工構造物について、世界遺産登録に際してユネスコ世界遺産調査団から「現状を把握したのち、改良もしくは撤去を考えるべきである」との勧告が出ていました。

砂防ダムの目的

 知床半島は急峻な地形的特徴から、土石流や突発的な洪水(鉄砲水)が発生しやすい土地です。河川近くに漁場や住居などの生活空間もあるため、防災や漁場保護など「住民の生活を守る」という観点から斜里・羅臼両側の河川には複数の砂防ダムが作られてきました。一方で、これは同時に魚の移動も制限することにもなりました。

魚への配慮、変わる河川環境

 これまでイワウベツ川の支流に存在していた、いくつかの砂防ダムに関して は「スリット化」や「手作り魚道」などで改良を施し魚類の移動が可能となりま した。本流にも昭和40年代(約50年前)に作られた大型の砂防ダムが2基存在していますが、今後5年間で改修し魚類の移動が可能となる計画です。

調査からわかったダムの影響

 私たちは、こうしたダムの改良化や現存する2基の大型砂防ダムの影響を明らかにするために調査をはじめました。調査地点はイワウベツ川流域に合計13地点を設置しました。各地点で特殊な調査器具を用いて川に電気を流し、一時的に気絶させた魚を採集し密度を推定しました。その結果、採集できたヤマメとオショ ロコマ2種の密度が、2基の大型砂防ダムより下流では6.8匹/100m²でしたが、ダムより上流では0.3匹/100 m²という結果となり実に20倍以上の差があることがわかりました。つまり、ダム上流で隔絶された水域の魚たちはダムの影響を大きく受けている可能性が示唆されました。今後の改修により、魚たちの生息環境はどう変わるのでしょうか。来年度も調査は続きます。

タンネウシ2月号表面
タンネウシ2月号裏面

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