カシュニの滝の岩礁 〜タンネウシ9月号
合地信生
今年の4月、知床半島カシュニの滝沖で観光船の沈没事故が起きました。事故発生後から、カシュニの滝付近の複雑な海底地形が注目されました。
海岸線の地形
知床半島の海岸線は、基部の峰浜からオシンコシン崎までは海底で堆積した泥岩が多く、小礫の浜が続きます。そしてオシンコシン崎からウトロの市街地にかけては、海底火山活動の礫層と岩脈の地層が海岸線に続き、硬い部分は岩礁を作っています。この地層は水冷破砕岩と呼ばれ、地下からマグマが岩脈で上昇し、海水と接して急冷され火山礫や砂を作り、その中心には硬い岩脈があります。世界自然遺産の入り口の幌別川からルシャにかけては溶岩の断崖が続く険しい地形ですが、海に岩礁はなく船の航行にとっては安全な地域です。ルシャには泥岩があり、また小礫の浜が出現します。ルシャから半島先端部にかけては水冷破砕岩の岩礁が続きます。カシュニの滝も水冷破砕岩の岩礁地域です。
岩礁と火山活動
知床半島では最初に泥岩が堆積します。峰浜からオシンコシン崎、それとルシャの地域がそれにあたり低地と小礫の海岸を作ります。次に海底火山活動で水冷破砕岩や岩脈の地層を作りました(図B1)。しばらくして半島の中軸部(東側)の地下でマグマ活動が激しくなり隆起し、東側は陸になります。海底では海底火山活動の層が波の浸食作用を受け、硬い岩脈の部分は残り、水冷破砕岩の部分は削られて凹凸の地形が形成され岩礁が生まれました(B2)。次に陸上の火山活動が活発になり、溶岩を流しました。溶岩が海まで流れた地域と、海まで流れなかった地域に分かれました。海まで溶岩が流れなかった地域では岩礁地形はそのまま残りました(B3-1)。海まで流れた地域では溶岩が流氷に削られ、険しい断崖地形を生みましたが、海底の岩礁地形をおおいました(B3-2)。溶岩は数回流れ、その間は地下水の通り道となり、フレペの滝(乙女の涙)など岩の間から滝になっています。一方、溶岩がない岩礁の海岸線では、カシュニの滝のように地表を流れた水が滝となっています。
溶岩の動きで岩礁が残るか残らないか、滝の形態など地形が大きく変わります。今回の事故は知床の険しい自然を再度確認させられた事件でした。ご冥福をお祈り申し上げます。
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