カムイワッカ川の白い川底〜タンネウシ11月号

合地 信生

カムイワッカ川上流の川底(2020年10月 撮影)

 カムイワッカ川は温泉が流れる川として知床でも人気の観光地の一つです。川底は白くなっていますが、川岸の岩石は一般的な灰色をした安山岩です。流量の多い場所では川底の安山岩が白く変わったような様相になります。

カムイワッカ川の泉質
 カムイワッカ川を流れる温泉は、硫黄が大量に溶けて亜硫酸になった強酸性の温泉です。亜硫酸は水の中では陰イオン状態で、鉄やナトリウムなどの金属イオンは陽イオン状態ですので、両者が反応して亜硫酸鉄や亜硫酸ナトリウムの化合物を作ります。カムイワッカ川の安山岩の主要元素は多い順に、シリカ、鉄、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムです。鉄からマグネシウムにかけては金属元素ですのでカムイワッカ川の強烈な亜硫酸に溶けて化合物を作りますが、一番量の多いシリカは非金属なため、溶けずに残ります。シリカ元素は無色なのでシリカ鉱物のメノウは無色透明です。カムイワッカ川の川底の岩石には無色透明のメノウができても良いかと思われますが、実際は白色不透明です。

温泉と蛋白石
 白色不透明になるのは川を流れる約40℃の高温水と関係があります。高温水がある環境では、メノウではなく、水分が浸み込んだ蛋白石(オパール)ができます。蛋白石はその名前から分かるように卵の白身が熱で白く固まったような白濁した色をしています。メノウにはしばしば白濁した縞模様がありますが、これは高温水の存在により層がつくられるためです。

流程と岩質
 カムイワッカ川の川底を観察すると、下流では温泉水が緩やかに川全体を覆っており、川底は頑丈な蛋白石でできています。上流では流れが急で常に流れている場所は狭く、川岸のほとんど流れていない場所は灰色の安山岩の状態のままで残っています。さらに川縁の温泉水があまり当たらない場所の蛋白石ははがれています。蛋白石は結晶構造を持たないため、含まれる水は乾燥すると蒸発し蛋白石が分解し、はがれた状態の川底になります。
 カムイワッカ川に行かれた際は白い川底を生み出す硫黄をたくさん含んだ温泉水に注目してみて下さい。

タンネウシ11月号_表面
タンネウシ11月号裏面

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