二枚貝が川の地形や流れを変える?〜タンネウシ12月号
三浦一輝
みなさんはカワシンジュガイという二枚貝を見たことがありますか?殻の長さが13 cmほどになる二枚貝で、貝殻全体が黒いことから“カラス貝”と呼ばれることもあります。北海道に広く分布し、斜里川の一部にも同じ仲間の貝が生息しています。近年、全国的に数が減少し、絶滅が危惧されています。この貝の大きな特徴は、川底にたくさん刺さった状態で群れて暮らすことです。この貝で川底が真っ黒になることもあります。
二枚貝がいなくなるとなにが起こる?
私がまだ北海道大学で研究をしていたころ、当時の指導教官の先生と、たくさん刺さっているカワシンジュガイが川からいなくなったら川の環境にどんな変化が起きるだろう?という話になりました。その時の私は突拍子もなく「貝が川の一部からいなくなったら、川底が掘れ、川幅も拡がって大きなクレーターができるのでは?」と考えました。自分で考えておいて、きっとそこまで変わらないだろうとその時は思っていました。
二枚貝が本当に川の地形を変えた!
では、実際になにが起きるのか?私を含む研究グループは、この疑問に答えるために、北海道東部の厚岸町を流れる別寒辺牛川の支流で、川の一部の区間(川幅×10 m)からたくさんいるカワシンジュガイを人工的にどけてしまう実験を行いました。この川の特徴は、勾配が緩く川底が砂でできています。そこに1 m2あたり100匹を越える貝が生息していました。実験のために、貝をどけてしまう区間とどけない区間をつくり、貝の有無によって水深や流れの速さ、川の断面積が変化するか調べました。結果、貝をどけた区間では、2ヶ月後には水深が60%深くなり、流速が30%ほど遅くなりました。また、川の断面積が拡がりました。この実験から、大きなクレーターまではできないものの、カワシンジュガイがいなくなることで、川の地形や流れにまで影響が及ぶことがわかりました。川の地形の変化は、貝の下にあった砂が侵食されて起きたと考えられます。川から見れば一つ一つは小さな貝が、思っていたよりも大きく川の環境に影響を与えているようです。
今後は川底が石の川や川幅、勾配が異なる川でも貝のもつ役割を検証をしつつ、カワシンジュガイの適切な保全に役立つ研究を進めていきます。
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