知床連山が高いのは水のおかげ〜タンネウシコラム11月号

合地信生

知床連山の上昇メカニズム

マグマの誕生
知床半島中心部には1,500m級の火山が連なっていますが、全てが陸上の溶岩ではなく基盤の堆積岩との二段構造になっています。標高800mの地点に堆積岩があるので、本体の溶岩は数十万年の間に海底から800mほど上昇したと考えられます。どのように上昇したのでしょうか。
知床半島の南側に位置する千島海溝では、太平洋の海底が北海道の下に沈み込んでいます。その際、大量の水も地下深くのマントルへ持ち込まれることで反応速度が早まり、地下120km地点で水を含むマグマが生まれます。ここで生まれたマグマはマントルから溶け出した鉄とマグネシウムが多い玄武岩マグマです。このマグマは周りのマントルより比重が軽く、ゆっくりと上昇してゆきます。

ビールの泡とマグマは同じ?
マントルで誕生した玄武岩マグマが上昇を続けると、比重の軽い大陸地殻へとたどり着きます。ここで、上昇してきた玄武岩マグマの比重と周りの大陸地殻の比重が同じになるため、やがてマグマの上昇が止まり、マグマだまりを作ります。マグマだまりの中では、鉄とマグネシウムに富み水を含まない重い鉱物が沈澱し、上の方では水分の割合は高くなり、圧力が増します。このように、マグマだまりの中で水の圧力が高くなっていき、周りの岩石の圧力が小さい状況ではマグマが発泡します。ちょうど、ビール瓶を振って中の圧力を高くし、栓を抜くことで圧力を開放すると、発泡した泡が出るのと同じ現象です。

水が地殻を押し上げる
ところで、現在の知床半島はプレート運動によって両側から圧縮されています。そのため、マグマが通る火道も圧縮され、なかなかマグマが噴火できない状態になっています。その結果、発泡したマグマは火道の途中で一旦止まります。しかし、下のマグマだまりからは発泡したマグマが供給され続けるので徐々に圧力が高まります。まさにこのときが水の圧力でマグマが山全体を持ち上げる瞬間です。そして、ついに圧力が限界に達し、閉じた火道を突き破ります。そして、噴火します。
知床半島ではマグマに含まれる水が発泡したマグマを生み、そして、横方向から地殻を圧縮する力でマグマが一度止まる状況になることで山を高く押し上げ、数十万年の間に800mも上昇させたと考えられます。

タンネウシ11月号(表面)
タンネウシ11月号(裏面)

横山

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