歴史的建造物の町民による活用の取り組み〜タンネウシコラム9月号
阿部公男
8月14〜27日、斜里町の旧役場庁舎では町内団体による「葦の芸術原野祭」が開催されました。本芸術祭では、展示や演劇、音楽演奏などが行われ、開期中は多くの方にご来場いただきました。
旧役場庁舎の外観からは、現在でも、北海道内に現存する数少ない昭和初期のハーフティンバー風(北方ヨーロッパの木造建築の技法)の建築物の様子を伺い知れます。一方、ベランダの撤去や望楼の設置、外壁や窓枠の変更のほか、玄関周りや煙突の改築などが世界大戦時や昭和45年に図書館として利用される際などに行われ、建築当初の様子とは異なります。それでも、室内に入れば縦長の窓枠や腰板のあった壁、板張りの床など懐かしい雰囲気を感じることがでます。片付いた会場では、半世紀ぶりに柱のない約100畳の空間が現れ、そこで演劇や音楽ライブが行われました。建物のもつ独特な雰囲気を味わいながら、ホールなどの専用施設とはまた違った演出を楽しめました。
会場に残されていた書架には、来場者に持ち寄っていただいた斜里町にまつわる思い出の品々を展示しました。また、昔の斜里町や旧役場庁舎の様子を知る人々にも来場いただき、様々なエピソードを通して当時の様子を証言していただきました。これにより、以前から博物館が連携してきた、斜里町郷土研究会や女性史の会などの活動では掘り出せていなかった記憶を集め、昭和から平成の斜里に関わる様々な出来事を記録する貴重な機会となりました。これらの証言は、地域の重要な資料として今後も集められ、記録と編集が進められます。
他にも、芸術祭では知床で活動するアーティストの作品展示や、普段は図書館で行われる紙芝居などの催しもありました。博物館としても、これまで担ってきた地域の文化や歴史の調査、保存、伝承といった役割だけでなく、これまでにない複合的な視点で地域を捉え、これからの旧役場庁舎の現実的な保存や活用、維持管理のあり方を探ることができました。
博物館では今後も町民の皆さんと協働して斜里の歴史やその変遷を調べて保存する活動を基本に、必要かつ最小限の管理を行い、できる限り現在の建物の状態を維持しながら、この建物を活用していく方法を検討していきたいと思います。
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