花から広がる生き物のつながり〜タンネウシ2月号2026

樋口眞人
動けない植物の知恵
みなさんご存知のように、植物は動物のように歩いて移動することはできません。しかし大抵の場合、子孫を残すためには自身からなるべく遺伝的に遠い相手を探す必要があります。そんな植物たちは“花”という器官を発達させ、風や水なども使いながら巧みに子孫を広げてきました。
特に重要な役割を果たすのが動物で、普段私たちが目にする花の多くが受粉を動物に頼って生きています。
一般に、受粉を動物に頼る植物は、花を広告塔として、遠くでも認識できるような目立つ花びら・匂いなどの手がかりを動物に示しています。広告に惹かれてやって来た動物は、蜜や花粉を報酬として受け取りますが、このとき花粉のついた体の一部が花のめしべに触れることで受粉が成功します。
花のかたちと訪れる虫たち
ところで、植物はどんな動物が花に来ても嬉しいのでしょうか。じつは、花を利用する動物であればなんでも花粉を運んでくれるわけではありません。このため植物は、花のかたち・色などで、来てほしい動物をある程度選んでいると考えられています。たとえば、エゾスカシユリのような赤色系の花には、昆虫では珍しく赤色を識別できるアゲハチョウがよく訪れます。筒形になっている花(斜里ではエゾエンゴサクなど)には、奥に隠された蜜を求めてマルハナバチが訪れます。ちなみに、マルハナバチは同種の花に繰り返し訪れる性質をもつことから、花にとっては非常に都合の良い存在であると考えられています。
花に開けられた謎の穴
エゾエンゴサクの花を注意深く観察していると、数ミリ程度の小さな穴の開いた花が見つかることがあります。これは盗蜜痕とよばれるもので、大型のマルハナバチが大あごで噛んで花の横から蜜を吸った痕跡です。舌が花の奥まで十分届く場合、多くのマルハナバチは舌を伸ばして正面から蜜を吸います。一方、舌の長さが短い場合や、穴を開けた方が手っ取り早いと判断した場合、“盗蜜者”は穴を開けて無理やり蜜を吸うと考えられます。一見すると植物側が不利に見えますが、盗蜜中にも花粉のついた体がめしべに触れることがあり、盗蜜者も多少なりとも受粉に貢献しているようです。
裏切りのハクサンチドリ
植物側が裏切りをする場合もあります。道東でも見られるハクサンチドリという蘭は、花がエゾエンゴサクのように筒形で、いかにも奥に蜜が溜まっていそうな見た目をしています。しかし実際はそこに蜜は無く、蜜があると思って来たマルハナバチが蜜を探してもがいていると、粘着性のある花粉の塊を頭に付けられてしまいます。そのマルハナバチが別の花を訪れ、運良く花粉がめしべに付くと受粉が成功するのです。
つながる生き物たち
世界遺産知床では、流氷の影響を受けた海から山へとつながる食物連鎖の現場を見ることができますが、世界遺産地域まで行かずとも、みなさんの近所では生き物たちの攻防劇が日々繰り広げられています。植物や昆虫は興味ないな…という方も、“つながり”という視点を意識して身近な生き物を観察してみてください。きっと新しい発見があるはずです。
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