温泉は魚類に何をもたらすのか?〜タンネウシ11月号

臼井 平
温泉大国ニッポン
 日本は活発な火山活動により各地に温泉が噴出しています 。ある文献によれば 、日本列島で湧出る源泉の総数は約 17,000 箇所にも及ぶと言われています。そのうち源泉の温度が42℃を超える温泉は約8,000箇所にも及び、その多くは川や湖に流入しています。
 こうした川や湖では、温泉の硫黄や塩化ナトリウムなどの成分や高水温によって、魚の生息に向かない「死の水辺」と化していることが多々あります。
 例えば、弟子屈町にある屈斜路湖は1950−60年代の温泉開発による湖水の酸性化とアルミニウムイオンによる毒性化によって生息する魚類の大部分が一度、死滅したといわれています。
  また、「カムイワッカ湯の滝」で有名なカムイワッカ川においても、過去の魚類調査で「高水温により魚が生息していない」と結論づけられています。それでは、魚たちにとって温泉とは生息を阻害する「 毒水 」なのでしょうか 。


斜里川流域にグッピー?
斜里川は豊富な湧水により1年を通じて冷涼な河川ですが、いくつかの支流においては温泉施設からの温泉水の排出が確認されています。これらは真冬に湯気がわくほど暖かく、凍ることはありません。その中で熱すぎず、かつ有毒な温泉成分が薄い好条件が重なった一部の支流には、1980年代から南米原産の熱帯魚「グッピー」が住み着いていることが過去の調査でわかっています。
 この限られた特殊な支流では一年を通して水温が20℃〜30℃もあるため、グッピーにとっては適温です。しかし斜里川に元来生息している魚類が生息できない環境となり、グッピーにとっての楽園となっているようです。


温泉によって巨大化?
イワウベツ川の巨大ヤマメ

 「ホテル地の涯」脇を流れるイワウベツ川も、温泉が流入する河川です。これまで計2回の調査で2個体のヤマメの生息が確認されていますが 、その2個体いずれもが 30cm前後の大型個体でした。これは、同じイワウベツ川流域の他河川に生息するヤマメの平均的なサイズの2倍近くになります。
 試しにこの【イワウベツ川】と隣を流れる【盤の川】で1年間の水温を測定してみました。すると【盤の川】で1〜2月に1℃前後まで水温が落ち込むことがわかりました。この水温ではヤマメは動くことも困難な水温です。一方で温泉が流れる【イワウベツ川】の同時期では、10℃前後の水温で安定していることがわかりました。これは、ヤマメにとっては最適な水温で、厳寒期でも活発に採餌活動ができる環境となっています。もしかすると、温泉が流入することで真冬でも活発に餌をとることができた結果、これほど大型に成長することができているのではないか …と私は考えています。
 知床半島周辺には他にも温泉が流入している川が存在しており、調査を進めることで、「温泉が作る特異な自然環境」という新たな知床の価値を見出すことができるかもしれません。

タンネウシ11月号表面
タンネウシ11月号裏面


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