サケが減ると物質循環はどうなるか〜タンネウシ3月号2026
臼井 平
サケは海と森を繋ぐ架け橋!
サケの遡上が、海の栄養を森に運ぶ役割を担っていることは有名ですが、その効果はどれほどのものなのでしょうか。
アラスカで行われた過去の研究では、サケが遡上する川の岸から1km 以上も離れた樹木の中からもサケ由来の栄養が見つかっているようです。これは、ヒグマなどの陸上哺乳類やワシなどの大型猛禽類が運搬し食べ残したサケの残滓(=残りかす)によるものや、サケが含まれた糞などに由来するものだと考えられています。
また、樹木の成長にもサケは大きく寄与しているようで、サケが遡上する川の近くに生えた稚樹の成長を最大4倍に引き上げていることがわかっています。
知床のサケと物質循環
さて、それでは国内でも数少ない「サケによる物質循環」があるとされている知床ではどうでしょうか。
過去の研究では、知床でのサケ由来の栄養は、河岸周辺の植物からしっかりと検出されるものの、河岸から陸地へわずか50m離れた植物からは、ほぼサケ由来の栄養が検出されなくなります。これは、アラスカほどサケに依存するクマが少なく、陸域へ運搬されないことや、知床を流れる河川のほとんどが、急峻な谷間を流れており、そもそもサケを川原から森の奥深くへクマやワシが運搬することが 難しいことに起因していると考えられています。試算によればサケが森に栄養を運ぶ範囲は、アラスカの10%程度にとどまっているようです。
では、知床におけるサケの遡上は自然界にそれほど寄与していないのでしょうか。
サケ記録的な不漁
しかし「あの魚」は今でもサケに依存
知床博物館と東京農業大学・知床財団と三者協働で実施している魚類調査から少し面白いことがわかってきました。どうやら知床に生息しているオショロコマは、サケの産んだイクラに強く依存しているようです。
昨年秋は、サケの記録的な不漁により斜里町のサケ漁獲量は約70%減となってしまいました。調査地である世界遺産地域を流れる幌別川では、例年であれば秋に川に入れば足に激突するほどサケが遡上する川ですが、調査中はサケの姿を4−5匹しか見ることができませんでした。しかし、そんな状況の中でも捕獲したオショロコマの胃からは次々とイクラがこぼれ出てきます。個体によっては、「いくらかけご飯1杯分」ほどの数が出てきます。
結局、捕獲したオショロコマ130個体のうち約70%の胃からイクラが見つかりました。このことから、オショロコマはたとえサケの遡上が少なくイクラの資源量が少ない状況下でも、狙って高カロリーなイクラを捕食している事がわかります。
知床では、サケによる物質循環はアラスカほどダイナミックには認められていません。しかし、ひとつひとつの生き物を今後しっかりと観察してみると思いもよらないサケとの強い絆が見えてくるのかもしれません。近年の研究ではカワガラスという鳥も、(個体によっては)秋の食べ物が100%イクラになるほど依存している事がわかっています。サケ復活を渇望するのはどうやら人間だけでは無いようです。


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