旅する石器〜タンネウシ7月号2025
勝田 一気
石器で多く使われる黒曜石
鉄などの金属が普及するはるか昔から、獲物を狩る時や肉や植物を切る時、木の実をすりつぶす時などありとあらゆる場面で石を材料として作る「石器」が使われていました。その中でも、黒曜石は北海道全体のみならず日本の多くの遺跡で使われていました。斜里町の遺跡からも黒曜石製の石器が出土しています。今回は、黒曜石についてどこから斜里へ持ち込まれたかについて取り上げたいと思います。
天然のガラス黒曜石
黒曜石は、火山が噴火した際に噴出したマグマが急激に冷やされ、生成されます。急激に冷やされることで鉱物が成長しにくいため、ガラスの比率が非常に高くなった石です。そのため、工場で作られる現代のガラスのように切れ味が良いため肉や植物を切るのに向いており、「天然のガラス」とも言われます。
黑曜石の産地
黒曜石は、マグマが急激に冷やされるなどの特定の条件が揃った時に生成されます。日本全体で黒曜石の産地は100箇所以上確認されており、東日本に特に多くの産地が集中しています。北海道内では、黒曜石の産地として10箇所程度知られていますが、その中でも多く産出しているのが、赤井川、十勝三股、置戸、白滝の4大産地です。特に白滝についてはとても産出量が多く、北はサハリン、南は山形や新潟まで白滝の黒曜石を使った石器が出土しています。白滝は、産出量が多いだけではなく、結晶などの不純物が少なく石器に向いているところが特徴です。
産地推定分析
黒曜石は、産地によって見た目が異なる場合があります。白滝のもの赤い筋状の模様や、「 梨肌 」と呼ばれるざらつきが特徴です。しかし、なかなか見た目だけでは産地を判断することは困難です。黒曜石は産地により化学組成が異なるため、その点を利用し、「蛍光 X 線分析」をことで産地を推定することができます。
斜里の遺跡で出土した石器
北海道内の4大産地には斜里は含まれません。では、斜里の遺跡から出土する石器に用いられた黒曜石はどこから持ち込まれたのでしょうか。
斜里の遺跡から出土した黒曜石製の石器を分析すると多くは白滝産や置戸産です。他の産地と比べても近いので納得できます。少ない割合で十勝三股産も出土しています。その他にも、ウトロ滝ノ上遺跡では斜里から一番遠い赤井川産の黒曜石製石器が出土していることが分析によりわかっています。これらの結果は時代別や遺跡別に整理する必要がありますが、広い範囲の黒曜石を使っていたようです。しかし、ここで一つ注意しなくてはいけない点があります。それは、斜里に住んでいた人が原産地まで黒曜石を採りに行っているのか、中継貿易的に斜里に持ち込まれているのかということです。このことを、しっかりと考える必要がありますが、考古学では持ち込んだ人を特定することは難しいのが現実です。ぜひ皆さんも、黒曜石がどのように旅をして斜里にたどり着いたのか想いを巡らせてみてください。
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