サケの仲間 2 鮭と川と人と〜タンネウシコラム10月号

三浦 一輝

知床の川を遡上するサケ(川村 敦 撮影)

サケと聞くと、店頭で売られている切り身やいくらなど、水産物としてのサケを思い浮かべる人が多いと思います。しかし、視点を変えれば、サケは他にも多くの分野とのつながりを持っていることを実感できます。

考古とサケのつながり
ヒトは古くからサケを利用してきました。このため、考古学にもサケが登場します。例えば、北海道や福井県の遺跡から出土した1万1千~1万5千年前の縄文式土器の焦げ跡を化学分析した最近の研究では、縄文人が煮炊きを行い、ヒト史上最古の煮炊きの対象がサケであった可能性が高いことを示しました。これにより、農耕が始まる前に発明された土器が食料の貯蔵だけでなく、魚の調理にも使われていたことを伺い知ることができます。また、国史跡であるウトロのチャシコツ岬上遺跡など、斜里周辺のオホーツク文化の遺跡からもたくさんのサケの骨が見つかっており、海岸地域に暮らした人々もサケを多く食べていたことがわかります。このように、サケは昔の人の生活や文化の成り立ちを知るヒントを与えてくれます。

自然環境とサケのつながり
環境と生物の関係を明らかにする生態学では、海から森への栄養としてサケを考えることがあります。通常、水は山の高いところから海の低い方へと流れます。このため、森からの栄養は川を流れて海へ向かいますが、海からの栄養は風や生き物に運んでもらわなければ森に還ることはできません。このため、サケの遡上は海の栄養を山側へ還す役割を果たします。生態学では、川をのぼった海の栄養が他の生物にどのようなメリットをもたらすか、健全な自然環境の維持にどのように貢献するかといった、自然環境とサケのつながりが古くから研究されています。

サケのつながりの多さ
サケが持つつながりは多様です。他にも文化や民族、産業などとも深い関係性を持ちます。例えば、アイヌの人々は川に遡るサケを神として敬い、食料としてだけでなく、衣類などにも利用していました。10月から当館で始まる特別展「鮭と川と人と」では、サケが川をのぼることで支えてきたこれらのつながりについて紹介します。サケの重要性を再認識し、サケとの今後の付き合い方を考える良い機会になることを願っています。

タンネウシ10月号(表面)
タンネウシコラム10月号(裏面)

横山

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です