盤の川の「手作り魚道」 遡上したオショロコマを初確認!〜タンネウシ4月号

臼井 平

盤の川の手作り魚道を遡上した初のオショロコマ(ダム上流or下流どちらで採集したかわかるようにヒレを切るパターンを変えることで識別している)


世界遺産登録がきっかけでダム改良へ
 かつて世界遺産地域を流れる川には、魚の移動が困難な治山ダム・砂防ダムが多数ありました。しかし、こうしたダムの多くは 2005年の世界自然遺産登録を機に、魚の移動路(魚道) が造られたり、ダムにスリットがいれられたりと改良され、多くの魚が川の中を行き来できるようになりました。

40年間、分断された盤の川つなげたのは、「手作り魚道」
  世界遺産地域を流れるイワウベツ川の支流「盤の川」には、約40年前に作 られたダムがあり、魚の移動を阻んでいました。ダムの高さは 2m以上もあり、観光名所「さくらの滝(清里町)」よりも背が高く、魚たちにとっては巨大 な障壁となっていました。
 しかし、このダムは 2021年 ~ 2022年に知床財団や役場職員、そして多数の有志の「手作り」によって魚道が取り付けられます。重機を使わず、木材や土嚢や石を人の手で積み上げて魚道を作り上げました。この活動により、本流イワウベツ川に生息している魚類は、約 40 年ぶりに盤の川へ移動することが可能になりました。

開通して2年!手作り魚道を通った魚を初確認!
 2022年から博物館・知床財団・東京農業大学が協働で、この手作り魚道の効果について調査を実施しています。
  魚道ができた 2022年の調査ではダムの上・下流へ移動した魚は確認できませんでしたが、2023年10月の調査で初めてダムより上流へ遡上したオショロコマが1匹確認できました。たった1匹ですが約40 年ぶりにダムの上流へと移動した魚となります。この時、調査に携わる参加者から大きな喜びと歓声があがりました。

あと少しで海から最上流域まで全線開通 変わりゆくイワウベツ川
  盤の川のほかにイワウベツ川流域には魚の移動を妨げるダムがもう1 基あります。このダムも、来年度から改良工事が進められ、4 年後には魚の移動が可能になる予定です。この結果、イワウベツ川流域は海から最上流域まで魚の行き来が可能となります。

全線開通は何をもたらすか
 全線開通によって、海から遡上してくるサケやマスなどが今まで遡上できなかった区間に遡り始めることが予想されます。特に遊泳力の高いサクラマ スは最上流域まで到達する可能性が高いと考えられます。これにより、魚類の生息状況が変化する事はもちろんのこと、魚を餌とするシマフクロウなどの鳥類や、ヒグマなどの哺乳類の食性や行動にも影響が出ると考えられます。彼らがサケやマスを森に運ぶことで、海と森との生態系が再び強固に繋がる日が来るかもしれません。

私たちは、今後のイワウベツ川がどう変化していくのかを調査研究を通じて見つめていきたいと考えています。

タンネウシ4月号表面
タンネウシ4月号裏面

 

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