アイヌ語地名から探る絶滅危惧種カワシンジュガイの今と昔〜タンネウシ1月号

三浦 一輝

川底で群れるカワシンジュガイ(2015年10月 撮影)

 北海道には、現在もアイヌ語に由来する地名が多く残されています。例えば、斜里町の「シャリ」は“葦の生えている湿地、沼地”を意味するアイヌ語が語源とされています。アイヌ語地名は地形や生き物の名前を示すものが多く、その場所の昔の様子や環境を窺い知るヒントになります。

アイヌ語地名とカワシンジュガイ
 先月号のタンネウシコラムにて、川に棲む二枚貝“カワシンジュガイ”をご紹介しました。実は、この貝もアイヌ文化と密接な関わりを持っています。カワシンジュガイはアイヌ語で「ピパ」と呼ばれ(一部同じ仲間の貝も含む)、アイヌの人々はこの貝の殻をアワやヒエなどを摘みとる“穂ちぎり”として利用しました。このためか、ピパがつく地名を道内各地で見つけることができます。例えば、留辺蘂の「枇杷牛(ビバウシ)」という川は、川貝が多い所という意味の“ピパウシ”が由来とされています。他にも、十勝の「美馬牛川」や石狩の「美葉牛川」も同じ読み、語源です。では、このピパ地名はどれくらいある(あった)のでしょうか?

文献から探るピパ地名
 そこで私は、アイヌ語地名に関する本から道内のどこにどれくらいピパ地名がある(あった)のか調べました。60冊を超える本に目を通し、地名を探して地図に記していきました。
 結果、ピパに由来する川や地域名が35箇所見つかりました。中には名前が変わり、現在は違う地名で呼ばれる場所もありました。根室管内や渡島半島などの一部地域を除き、オホーツクや日高、石狩、釧路、留萌、上川など広い範囲から見つかりました。現在では、ほとんどカワシンジュガイが棲む川が見つかっていない地域からも地名が見つかり、古くは道内に広くカワシンジュガイがいたことを伺い知ることができました。
 カワシンジュガイは近年、全国的に数を減らし絶滅危惧種となっています。この貝の適切な保全には、過去や現在の分布を知ることが重要です。その際に、このピパ地名が貴重な手がかりになるかもしれません。2021年夏、私は各ピパ地名を訪れ、貝の生息状況や川環境を調べました。1月に行う博物館カフェでは、現地調査の様子や結果を詳しくご紹介する共に、今後の人と川の関わり方について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

タンネウシ1月号表面
タンネウシ1月号裏面


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