ルシャ低地のシロウリガイ化石〜タンネウシ3月号

合地 信生

ルシャ低地より産出したシロウリガイの貝殻化石(左)、知床半島の化石産出地と温泉、火山の位置(右)

シロウリガイのコロニー
 知床半島は火山活動が活発で環境が不安定なため、化石が少ない地域です。なぜなら、海洋生物の化石は太陽光が届く浅い静かな環境で、ゆっくりと土砂が堆積する必要があります。知床半島の数少ない化石産地として、海底火山活動の地層がとぎれ、堆積層が広がるルシャ低地があります。そこにはかつて、二枚貝シロウリガイのコロニーがありました。
 シロウリガイはプレートが海溝に沈み込む深海でコロニーを作ることで有名です。彼らは、プレートの裂け目から湧き出す栄養に富む湧水を利用して生息します。情報量の少ない深海において、シロウリガイはプレートの割れ目の位置を教えてくれる貴重な生物です。

海底火山活動の間に残ったルシャの低地
 約200万年前から100万年前にかけて、知床半島ではルシャ低地を境に南北2つの地域に分かれて活発な海底火山活動がありました。その際、北側の半島先端部の方が活動期間が新しかったようです。海底火山活動は次のような順番で広がりました。①古い海底火山活動が半島基部からルシャにかけての地域でおこる。オシンコシンの粗粒玄武岩、ウトロのゴジラ岩や羅臼のマッカウス洞窟(ヒカリゴケ)が作られる。②火山活動が静かな時代が訪れる。ルシャに①の海底火山活動で生まれた砂が海流で流されて堆積し、貝の化石が作られる。③新しい海底火山活動がルシャから半島先端部にかけての地域でおこる。半島先端部の海岸段丘の礫層や羅臼側の赤岩が作られる。

ルシャの湧水
 羅臼側での南北境界にあたるルサ地区には相泊温泉や瀬石温泉があります。そこでは、温泉が海底火山活動の熱で緑色に変質した波打ち際の岩石の間から湧いています。半島部分の温泉では海底火山活動を熱源とするのはこの2か所のみで、湯量は多くはありません。他の温泉は最近の陸上火山活動を熱源にしており、十分な湯量があります。
 南北境界のルシャ(ルサ)地域の西ではシロウリガイのコロニー、東側では温泉水と、100万年前と現在の差はありますが、湧水と関係のある現象が観察されます。境界地域は地質構造が変わるため、割れ目ができやすく、湧水が多い場所なのでしょう。

タンネウシ3月号表面
タンネウシ3月号裏面

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です