記録を残すために〜タンネウシコラム3月号

記録を残すために

横山 仁美

音声用オープンリール(左:1979年、右:1950年代)

酸っぱい匂いがする?
先日、2つの音声用オープンリールテープが博物館に持ち込まれました。いずれも旧越川小学校の行事を記録した貴重な資料で、一方は劣化もなく綺麗な状態でしたが、もう一方はテープが波打ち、なんとなく酸っぱい匂いもしています。この2つのテープを比べてみると、綺麗な方は1979年に記録されたもの(写真左)で、波打っている方は1950年代前半頃のテープ(写真右)でした。後者は何度も使用して消耗しているだけにも見えますが、波打ちの原因はこの2つのテープのベース素材の違いにあると考えられます。その手がかりは、あの酸っぱい匂いです。

ビネガーシンドロームって?
多くのオープンリールテープはベース素材にポリエステルが使われていますが、1970年代初頭まではアセテートが使われていました。実は、ポリエステル製のテープはそれほど激しく劣化しませんが、アセテートのテープは劣化するとビネガーシンドロームという難病を発症します。ビネガーと聞くと、料理で使うワインビネガーを思い浮かべる方もいるでしょう。テープから漂う酸っぱい匂いがビネガーに似ていることが由来のようです。この匂いの正体は、テープのベース部分が酢酸化して発生したガスであり、その影響でテープが溶けてしまう現象をビネガーシンドロームと呼びます。
つまり、写真右の酸っぱい匂いがする方はアセテート素材のテープと考えられます。

発症を防ぐためには?
ビネガーシンドロームは一度発症すると止められず、保管環境を改善して進行を遅らせるしかありません。発症したテープは徐々に波打ち、次第にストロー状に丸まって固まり、最終的には粉々に砕けてしまいます。
さらに、発症したテープと健全なテープを一緒に保管していると、健全な方もガスの影響で同じ症状を発症してしまいます。そのため、博物館ではビネガーシンドロームの疑いがあるテープは、健全なものとは別の場所で保管する必要があります。
そして、可能であればオープンリールテープに記録された音声を読み出し、デジタルデータに変換してしまうことが望ましいです。そうしておくとテープがビネガーシンドロームを発症しても、確実に記録を残すことができます。

タンネウシ3月号(表面)
タンネウシ3月号(裏面)

横山

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です