神社とお祭りから地域を見る〜タンネウシ8月号

三枝 大悟

夏の日差しも強まってきた 6 月、ウトロの知床遠音別神社で開催された例大祭にお邪魔しました。斜里町域には 1 0 軒を超える神社があり、6 月から 9 月ごろを中心にお祭りが執り行われます。短い道東の夏が、神社調査においてはまさにホットな時期なのです。

神社調査はなぜ必要?
なぜ博物館の職員が神社のお祭りに行くのでしょうか。「好きだから」という のは大きな理由ですが、それだけでは 仕事として認めてもらえません。博物館での私の担当は、「歴史」≒文字で書かれた昔の記録と、「民俗」≒人の暮らしに関わる知識や習慣に関わる分野 で、その大切さや魅力がたくさんの人に伝わるよう、斜里の歴史と民俗を調べ、特徴を研究するミッションがあります。神社には、このミッションに関わる重要な情報が秘められているのです。

歴史と民俗の宝庫
神社は仕事の成就や健康、安全などを祈る場として、集落の成り立ちから間もなく建立され、人々の心の拠り所として大切に守られます。時には地元の人の寄付により新築されたり、狛犬や手水鉢が奉納されたりするのですが、そこに年月日や人の名前が書かれているのを見たことはないでしょうか。 これは、いつ、なんという人が、地域への想いや切実な願いを込めて祈ったのかを示す重要な記録になります。 そして、お祭りの日には獅子舞など様々な芸能が行われます。全国各地の人の移住によりできた北海道の集落では、その出身地から芸能が持ち込まれ る例が見られます。一方で、合理性や美しさなどのために、芸能の担い手を変えたり、新たな祭事を取り入れたりすることもあります。お祭りは伝統的なものと捉えられがちですが、変わりゆく中で地域らしさを獲得したり、逆に他の地域に似て行ったりするのです。

いつ調査するの?今でしょ!
歴史が記録された紙や石は時代とともに劣化したり、処分されたりします。 そして民俗は、人口の変化や時代の流行に大きく左右されます。特にコロナ禍を挟み、積み重ねられてきた経験は途切れ、人と人との関わり方は大きく変わりました。それでも今はまだ、地域の変化を目の当たりにしてきた世代や、その記憶を色濃く受け継いだ方々 が多くいらっしゃいます。記憶が失われる前に、地域の方々が大切にしてきた神社とお祭りを訪ねて記録し、他の地 域と比べてその特徴を考えることは、 冒頭で書いた私のミッションに大きく関わります。 そんなことを考えながら、あちこちの神社やお祭りにお伺いする予定です。 お会いした時には、ぜひ、いろんなお話を聞かせてください。

タンネウシ8月号表面

タンネウシ8月号裏面

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